カードゲームのインフレに伴う変化

 

この記事は、東京大学ゲーム研究会アドベントカレンダー2025、5日目の記事です。

初めに

こんにちは。Mです。本日はカードゲームのインフレに伴う戦術やゲーム性の変化を追っていきたいと思います。ここでは、メタゲームなどの観点はあまり持たず、それぞれの試合のこちらは多大なる個人の偏見が多分に含まれています。苦手な方はご遠慮ください。また、筆者はTCGとは言っていますが、多くのことはBattle Spiritsとデュエル・マスターズでの経験に基づいて多くのカードゲームに言えそうなことを抽象化しているので、予めご了承ください。(インフレを感じられるほど長い期間やっているのがこの二つしかない…)

定義

今回カードゲームのインフレの話をするにあたって、ここでのカードゲームとインフレの定義をします。
1.カードゲームとは
本記事の考察ではいわゆるトレーディングカードゲームを想定しています。要件は主に以下の通りです。
1.プレイヤーはあらかじめデッキを構築する
2.ターン制で進行
3.規定の条件を先に満たした方が勝ち
4.定期的にカードプールの更新がある
4 番の条件は少し異質ですが、本記事ではインフレをするカードゲームに対して考察する必要が
あるのでご了承ください。
2.インフレとは
カードプールの更新に伴って、カードパワー(ここではそのカード1枚がゲームに与える影響力や強さの総合的な指標)が上昇することだとします。

インフレの影響

インフレが起こった場合、カードゲームはどうなるのでしょうか。どのゲームにも共通している要素として考えられるのは出力の上昇、高速化、再現性の向上などだと思います。ここでの出力とはカードでとれるアドバンテージ量の増加です。

戦術の変化

多くのカードゲームにおいて最序盤、創成期はどのような感じでしょうか。私は新しいTCGをできた時からやることはほとんどないので推測が多く含まれてしまうのですが、人から聞いたり記事を読んだ感じでは、リソース差を作ることで自身に有利な状況を作り出し、そのアドバンテージを生かして勝ち切ることが多いように感じました。それではカードゲームにおいて、カードパワーが向上すると起こることは何でしょうか。それは前の影響のところでも少し述べましたが、ゲームの高速化です。多くのインフレの行き着く先としては疑似的な、もしくは直接的に勝利を意味するカードの出現です。
どのゲームにしてもただやられるのを見ているのはつまらないので防御用のカードが作られたりしますが、どうせそのうちその防御札を飛び越えて相手を倒しきるカードがインフレによって作成されます。そのような状況になるとどうなるのか。多くのカードゲームのインフレで言えることだと思うのですが、ゲームをたためるカードが作られる→それに対抗する(この場合は耐える)カードが作成される→それを乗り越えるカードが作成される。防御札を超える以上のフィニッシュ方法はありません。つまりインフレは火力を上げる以外の方向に伸ばすしかなくなります。そう、それは先に出すことです。”先にゲームを終わらせるカードを出した方が勝つ”という簡単な理屈です。じゃあキルターンは速くなるのは納得がいくことです。メタカードなどによりターンをもらうことで自分のフィニッシュを先に叩き込もうとするのはとても合理的な戦略だと思われます。では、そうなった際、ゲーム性はどうなるのでしょう。

ゲーム性の変化

前述の通り、インフレ前、あるいは初期ではアドバンテージ差を作りそれを勝利へと結びつけることが多いです。そしてインフレが進むとゲーム速度が加速する。加速するということは、終了までのターン数が短くなる。つまり、ターンの重みが増加します。例を出します。4ターンで終わるゲームと5ターンで終わるゲームでは最終的に迎えるどちらかが勝利条件を満たすという出力は変わりません。その出力を1だとすると4ターンの場合0.25、5ターンの場合0.20が1ターン当たりの貢献量です。つまり、ゲームの速度が加速するほど1ターンで行うべき勝利への貢献度は上昇します。(もちろんそんなに単純に言い切れるものではないのですが、ここでは簡単のために抽象化しています)もちろん現代のデュエル・マスターズのようにハンデスなどを駆使してゲームを意図的に遅くしてターン数が昔よりも長くなるというようなことはありますが、これらは大体2t,3tで相手の主要パーツを抜いているかのように実質的なキルターンはほかのデッキと大差はない気がしています(もちろん遅くはなっているが)。その結果、先手後手の差が大きくなり、運ゲーというような感情を抱く機会が増えてしまいます。ほかにもターン数が少なくなると単純に公開領域が減ることになり、いわゆる事故のような状況に陥ることが多くなり、これもまた運ゲーだという感想に結びついてしまいます(マリガンがないならなおさら)。

クソゲー?

では、インフレしたカードゲームはクソゲーなのでしょうか。私は必ずしもそうではないと思います。インフレして、ゲームレンジが短くなってしまい、先手後手の差が大きくなってもカード開発者たちはよりプレイヤーが楽しめるようなカードデザインをしていますので、ただ出ただけで勝ち!みたいなカードは規制されやすく、また、短いターンの中で密度の濃いやり取りができるようなデザインをすることによって、ゲームとして楽しめる条件は満たしていると感じています(もちろんやらかしてしまった時には、ターン数が短いことで目も当てられないことになった
りしがちですが)。また、今ではカード1枚1枚のゲームに対する影響力が大きいため、リソースを意識した立ち回りは大切な要素です。インフレが進んだところで、ゲームの根本であるリソース管理は変わらず重要であったということです。

まとめ

インフレする中でカードゲームは運ゲーが加速してしまうが、それでもリソースという概念と向き合うことは依然として重要です。それが健在である限り、カードゲームはゲーム足り得ると考えられます。