RTAの運ゲーは収束するのか?
この記事は、東京大学ゲーム研究会アドベントカレンダー2025、6日目の記事です。
はじめに
TGA22のClomyです。12/2の記事と連続して書いているので、特に言うことはないです。
さて、自分は『カービィファイターズ2』など、運要素の強いTA(ここではRTAおよびIGTA(ゲーム内タイマーでのタイムアタック)の両方の総称とします)を走っています。その運要素について、「確率は収束する」のような趣旨のコメントをする方が度々見受けられます。ということで今回は「TAにおいて運ゲーは収束するのか?」についてのお話です。
確率論・統計学の用語が時々現れますが、詳しい人に突っ込まれないようにするためなので、気にせず読み飛ばしても大丈夫です。
確率は収束する
まずは、「確率は収束する」について。具体的にどの定理を指しているかはわかりませんが、期待値と分散の話をしたいので、「中心極限定理」について紹介します。一応主張を明記しておきます:
中心極限定理
期待値と分散を持つ独立同分布に従う確率変数列を与える。
自然数に対し、とおくと、以下を満たす:
(定理の仮定について、期待値と分散の存在はゲームの運要素は大体多項分布的なものであることから満たすでしょう。独立同分布については、真の乱数列じゃないと言われればそうですが、実用上の乱数列でも大きな問題にならないはずです。)
この定理を1から6の目が等確率で出るサイコロの場合で考えます。サイコロを振って6の目が出た回数を数え、多い方が嬉しいとしましょう。
まず6回振ったときを考えます。6の目が「6回中1回」が平均ですが、「6回中2回」出たら少し運がよかったと言えるでしょう。
さて頑張って6万回振ります。このとき6の目が「6万回中1万回」が平均ですが、「6万回中2万回」の場合、運がいいを通り越して細工がされてないか怪しくなってきます。一方「6万回中1万1回」の場合、運がよかったと言えるか、かなり微妙です。
この2つの側面は標語的に「大きな上振れ・下振れは起きづらく」、「小さな上振れ・下振れは頻繁に起きる」、とまとめることができます。
前者が「(平均の)確率は収束する」を指す方です。これは6の目が出た回数の「平均」の振れ幅(の基準となる分散)が、試行回数の平方根に反比例するためです。から一定「割合」ズレる確率はサイコロを振る度に下がります。
一方後者は「合計の確率は割とゆっくり発散する」とでも呼びましょうか。6の目が出た回数の「合計」の振れ幅が試行回数の平方根に比例するためです。から一定の「回数」ズレる確率はサイコロを振る度に上がります。6の目の回数の期待値そのものはサイコロを振った回数に比例するため、それに比して「割とゆっくり」です。
ちなみに「6回中2回」と同程度の上振れは「6万回中1万100回」になります。100回というのは案外小さいと思ったかたも多いのではないでしょうか。この印象を「確率は収束する」と呼ぶ気持ちもわからなくはないですが、語弊があるかなと思います。
TAにおける運ゲー
さて、一回の走りで大量の運要素が絡むようなTAを考えます。ここで「運ゲーは収束する」と言えるでしょうか?
実際には、同程度の確率・タイムの振れ幅の運要素だけが存在するわけではないですが、一旦無視してこれまでの考察を適用します。TAは当然タイムを競うわけですから、ここで考えるべきは「合計」の方です。つまり「小さな上振れ・下振れが起きやすい」ということに注目すべきです。運要素によるタイムのブレは、「同じ運要素」が多いほど大きくなります。つまりむしろ「ゆっくり発散」します。
もちろん、記録狙いの場合は上振れを狙うので、「大きな上振れが起きにくい」面も無視されるわけではないですが、単にタイムが詰まれば詰まるほど、記録更新が難しくなるというだけで、普通のことですね。
今度は、タイムの振れ幅が異なる運要素がある場合を考えます。例えば「1秒ロスする要素が600回」、「1分ロスする要素が10回」とします(確率はいずれも等しいとします)。この場合「1分ロス」の方に着目するのは何となく理解してもらえるかと思います。前者の方が回数が多い分「大きな上振れ・下振れ」が起きにくくなるため、後者によるタイムのブレの影響がでやすくなるんですね。
運による影響が大きいことを指す「闇のRTA」と表現があります。これ、単に運要素が多いことを指している場合を効きますが、ちょっと違和感があります。確かに運要素の回数が多いほど、ストレスが断続的にたまるという面はあります。しかし、純粋にタイムを求める場合、運要素による差が大きくなるのは、「1秒ロスする要素が600回」ある方ではなく、「1分ロスする要素が10回」ある方です。後者の方が分単位の差が付く可能性が圧倒的に高いからです、より「闇」なのではないでしょうか。並走で運によるロスは実力でカバー必要があるわけですから。
ついでにお気持ち表明すると、運要素の大きいとTAで実力の部分を軽視されがちな風潮を時々感じています。運ゲーに注目すること自体が悪いことではないと思いますが、走者がちゃんと準備している部分も偶には注目してもいいんじゃないかなと思います。
まとめ
ちなみに自分は走者として、運要素は大嫌いです。実力でカバーできる範囲を超える下振れをされると、馬鹿にされてるみたいで非常に嫌な気持ちになるので。